独り言
2002年12月18日午後、私用のため電車で出かけた。
昼下がりの車内は、空いている。
電車に乗ったとたん、女性の話し声が聞こえた。
喋っているのは、60歳くらいの女性であった。
向かいのシートに連れが腰掛けているらしく、まっすぐ正面を向いたまま、車両中に響くような声で熱弁をふるっている。
しかし、彼女の向かいの席に座っている人物を見て、息を飲んだ。
それは若いサラリーマン、しかも眠っている。
もはや考えるまでもない。女性は、独り言を言っているのだ。
見えない相手と喋っている、と言った方が正しいかもしれない。
静かな車内には、彼女が延々と語る言葉だけが響いている。
話題は、息子だか親戚の誰かだかが、海外に長期出張に行くとか行かないとか、そんなことらしい。
家庭の事情から、日本の国際交流についてまで、話しはどんどん展開していく。
不思議な光景ではある。
しかし、よく考えれば、そう珍しいことではないのかもしれない。
人は誰でも、常に誰かと会話したり問いかけたりしながら生きているものなのではないだろうか。
その相手は、もう一人の自分だったり、遠くの友人だったり、恋人だったりするだろう。
要は、その心の中の会話を、声に出すか出さないかの差だけではないだろうか。
やがて、電車は私の下車する駅に着いた。
話の続きに心を残しながら、私は電車を降りた。
昼下がりの車内は、空いている。
電車に乗ったとたん、女性の話し声が聞こえた。
喋っているのは、60歳くらいの女性であった。
向かいのシートに連れが腰掛けているらしく、まっすぐ正面を向いたまま、車両中に響くような声で熱弁をふるっている。
しかし、彼女の向かいの席に座っている人物を見て、息を飲んだ。
それは若いサラリーマン、しかも眠っている。
もはや考えるまでもない。女性は、独り言を言っているのだ。
見えない相手と喋っている、と言った方が正しいかもしれない。
静かな車内には、彼女が延々と語る言葉だけが響いている。
話題は、息子だか親戚の誰かだかが、海外に長期出張に行くとか行かないとか、そんなことらしい。
家庭の事情から、日本の国際交流についてまで、話しはどんどん展開していく。
不思議な光景ではある。
しかし、よく考えれば、そう珍しいことではないのかもしれない。
人は誰でも、常に誰かと会話したり問いかけたりしながら生きているものなのではないだろうか。
その相手は、もう一人の自分だったり、遠くの友人だったり、恋人だったりするだろう。
要は、その心の中の会話を、声に出すか出さないかの差だけではないだろうか。
やがて、電車は私の下車する駅に着いた。
話の続きに心を残しながら、私は電車を降りた。
TDR
2002年12月15日息子と二人で、ディズニーリゾートを1泊2日で楽しんできた。
10月末の超多忙だった時期に、自らの鼻先にぶら下げるニンジンとして計画した旅行であった。
以来、この2日間をずっと夢見ながら頑張ってきた。
思えば、安い夢である。
楽しい2日間を終えて電車で帰宅する途中、息子は何度も、楽しかった、楽しかったと連発した。そして、
「これが夢だったらね・・・。目が覚めたら、また行けるのにね」
と言う。
現実と夢の狭間で楽しんだ2日間。
そして明日からは、また、新しい夢を目指して現実社会で戦わなければならない。
大人も、子どもも。
10月末の超多忙だった時期に、自らの鼻先にぶら下げるニンジンとして計画した旅行であった。
以来、この2日間をずっと夢見ながら頑張ってきた。
思えば、安い夢である。
楽しい2日間を終えて電車で帰宅する途中、息子は何度も、楽しかった、楽しかったと連発した。そして、
「これが夢だったらね・・・。目が覚めたら、また行けるのにね」
と言う。
現実と夢の狭間で楽しんだ2日間。
そして明日からは、また、新しい夢を目指して現実社会で戦わなければならない。
大人も、子どもも。
ろい
2002年12月11日息子がまた、かけ算九九50問テストの答案を持ち帰った。
赤ペンで100点と書かれた横に、鉛筆で「ろい」と書いてある。
「何?この、ろいって?」と、息子に聞くと、彼は言う。
「ろいじゃなくて、3位だよ」
答案を書き終えて提出した順位なのだそうだ。先生の指示で、自分で書いたのだと言う。
息子はクラス内で3番目に提出した、ということらしい。
3位だった知れば、1位と2位は誰だったのか知りたくなるのが人情である。
息子に聞いてみた。
1位はF君とのこと。息子の話に、よく出てくる子である。
彼は算数も国語も体育も得意な、典型的な優等生タイプらしい。
しかし、2位が誰なのか、息子はよくわからなかったのだと言う。
わからないとなれば、よけいに興味をそそられる。
息子と、2位が誰だったのか、面白半分に推測してみた。
「Y君じゃない?」思い当たる子の名前を、言ってみる。
「いや、違う。Yは算数は弱い。」と息子。
「じゃ、K君は?」
「可能性はあるね。Kは算数は強い。ぼくと同じくらいの強さ」
この、強い弱いという表現にひっかかる。
まるで、トランプゲームのカードの強さを語るように、息子は友達の学力を語るのだ。
息子にとって学校の勉強は、ゲームのようなものなのだろうか。
平成生まれの感覚は、理解できない・・。
赤ペンで100点と書かれた横に、鉛筆で「ろい」と書いてある。
「何?この、ろいって?」と、息子に聞くと、彼は言う。
「ろいじゃなくて、3位だよ」
答案を書き終えて提出した順位なのだそうだ。先生の指示で、自分で書いたのだと言う。
息子はクラス内で3番目に提出した、ということらしい。
3位だった知れば、1位と2位は誰だったのか知りたくなるのが人情である。
息子に聞いてみた。
1位はF君とのこと。息子の話に、よく出てくる子である。
彼は算数も国語も体育も得意な、典型的な優等生タイプらしい。
しかし、2位が誰なのか、息子はよくわからなかったのだと言う。
わからないとなれば、よけいに興味をそそられる。
息子と、2位が誰だったのか、面白半分に推測してみた。
「Y君じゃない?」思い当たる子の名前を、言ってみる。
「いや、違う。Yは算数は弱い。」と息子。
「じゃ、K君は?」
「可能性はあるね。Kは算数は強い。ぼくと同じくらいの強さ」
この、強い弱いという表現にひっかかる。
まるで、トランプゲームのカードの強さを語るように、息子は友達の学力を語るのだ。
息子にとって学校の勉強は、ゲームのようなものなのだろうか。
平成生まれの感覚は、理解できない・・。
雪
2002年12月9日反則である。
月曜の朝の大雪。
寝込みを襲うとは、酷すぎる。
それとわかっていれば、もっと早く起きたものを・・・。
目覚めてからは、自転車を使わずにどうやって出勤するか、
その算段にのみ頭を使った。
もうひとつの悩みは、雪かき。
我が家には、小さな庭がある。
そのささやかな庭が、草むしりの時と雪かきの時にだけ、
とてつもなく広大な土地に思えるから癪に障る。
しかし、今夜は、息子がチリトリひとつで庭中を除雪してくれた。
100円のお駄賃で・・・。
ありがたいことだ。
ついこの前まで赤ちゃんだったはずなのに、いつのまにか雪かきができるまでに
成長している息子が、きょうはとても頼もしかった。
雪の影響か、我が家のテレビは今朝、10チャンネルだけが映らなかった。
のんびり起きてきて、欠伸まじりに夫が言った。
「雪で、うちのアンテナ、おかしくなったんだな・・・」
うちは、ケーブルテレビだっての・・・(ーー;)
雪は、スキー場でお目にかかれば十分である。
明日の朝は晴天でありますように・・・。
月曜の朝の大雪。
寝込みを襲うとは、酷すぎる。
それとわかっていれば、もっと早く起きたものを・・・。
目覚めてからは、自転車を使わずにどうやって出勤するか、
その算段にのみ頭を使った。
もうひとつの悩みは、雪かき。
我が家には、小さな庭がある。
そのささやかな庭が、草むしりの時と雪かきの時にだけ、
とてつもなく広大な土地に思えるから癪に障る。
しかし、今夜は、息子がチリトリひとつで庭中を除雪してくれた。
100円のお駄賃で・・・。
ありがたいことだ。
ついこの前まで赤ちゃんだったはずなのに、いつのまにか雪かきができるまでに
成長している息子が、きょうはとても頼もしかった。
雪の影響か、我が家のテレビは今朝、10チャンネルだけが映らなかった。
のんびり起きてきて、欠伸まじりに夫が言った。
「雪で、うちのアンテナ、おかしくなったんだな・・・」
うちは、ケーブルテレビだっての・・・(ーー;)
雪は、スキー場でお目にかかれば十分である。
明日の朝は晴天でありますように・・・。
圏外
2002年12月8日息子を連れてデパートへ買い物に出かけた。
息子をゲームコーナーで遊ばせている間に、私は買い物をすませるつもりだった。
売り場を歩き回っていると、時間はあっと言う間にすぎてしまう。
ふと気になってポケットの携帯を取り出して見て、私は慌てた。圏外なのだ。
いったい、いつから圏外だったのだろうか。
別れてから、かなり時間が経っている。
息子は、自分の携帯から私の携帯に何度もコールしたに違いない。
お互いに携帯電話を持っているという安心感から、待ち合わせの場所も時間も何も決めずに別行動を取ってしまっているのだ。
私は急いで電波の届く所へ移動し、息子の携帯にかけてみた。
すぐに息子の「もしもし」という声が聞こえた。
しかし、そのあとは無音である。ツツッ、ツツッという、圏外警報音が鳴っている。
電波状態の良い所を探しまわって移動するが、電話は繋がらない。
通話は諦め、メールを送ることにした。
≪ママは、2階にいます≫
まもなく、エスカレーターを降りてくる息子の姿が見えた。
「何度もママに電話したんだよ。あっちこっち歩いて探しまわって・・・。ママ探しで、ぼく疲れちゃったよ」
息子は文句たらたらである。
どうやら、「迷子」になっていたのは、息子ではなく私の方だったようだ。
息子をゲームコーナーで遊ばせている間に、私は買い物をすませるつもりだった。
売り場を歩き回っていると、時間はあっと言う間にすぎてしまう。
ふと気になってポケットの携帯を取り出して見て、私は慌てた。圏外なのだ。
いったい、いつから圏外だったのだろうか。
別れてから、かなり時間が経っている。
息子は、自分の携帯から私の携帯に何度もコールしたに違いない。
お互いに携帯電話を持っているという安心感から、待ち合わせの場所も時間も何も決めずに別行動を取ってしまっているのだ。
私は急いで電波の届く所へ移動し、息子の携帯にかけてみた。
すぐに息子の「もしもし」という声が聞こえた。
しかし、そのあとは無音である。ツツッ、ツツッという、圏外警報音が鳴っている。
電波状態の良い所を探しまわって移動するが、電話は繋がらない。
通話は諦め、メールを送ることにした。
≪ママは、2階にいます≫
まもなく、エスカレーターを降りてくる息子の姿が見えた。
「何度もママに電話したんだよ。あっちこっち歩いて探しまわって・・・。ママ探しで、ぼく疲れちゃったよ」
息子は文句たらたらである。
どうやら、「迷子」になっていたのは、息子ではなく私の方だったようだ。
九九
2002年12月5日小学2年生のかけ算九九の学習も佳境に入ったようだ。
息子が、九九50問テストの答案用紙を学校から返されて持ち帰った。
算数は、息子が最も得意とする科目である。
答案を見ると、1問まちがいがあり、赤ペンで98点と書いてあった。
算数に対して絶対の自信を持っている息子は、誰よりも速く答案を仕上げることに誇りをもっているようなところがある。
速く答案を提出したいがために、きちんと見直しをせずに出してしまったに違いない。
息子に聞いてみた。
「このテスト、クラスでいちばん早く終わったのは誰?」
「たぶん、ぼく」
私は、言った。
「いくら早く終わっても、間違いがあったら何にもならないでしょう。じっくり考えなきゃだめよ」
すると息子は、平然とした顔で言う。
「じっくり考えたよ。じっくり考えたから、1問しか間違わなかったんでしょう」
・・・なるほど。
丸め込まれてどうする、母。
息子が、九九50問テストの答案用紙を学校から返されて持ち帰った。
算数は、息子が最も得意とする科目である。
答案を見ると、1問まちがいがあり、赤ペンで98点と書いてあった。
算数に対して絶対の自信を持っている息子は、誰よりも速く答案を仕上げることに誇りをもっているようなところがある。
速く答案を提出したいがために、きちんと見直しをせずに出してしまったに違いない。
息子に聞いてみた。
「このテスト、クラスでいちばん早く終わったのは誰?」
「たぶん、ぼく」
私は、言った。
「いくら早く終わっても、間違いがあったら何にもならないでしょう。じっくり考えなきゃだめよ」
すると息子は、平然とした顔で言う。
「じっくり考えたよ。じっくり考えたから、1問しか間違わなかったんでしょう」
・・・なるほど。
丸め込まれてどうする、母。
バスタオル
2002年12月3日風呂上りの息子に、夫が自分のバスタオルを使わせようとした。
息子が文句を言う。
「ぼくのバスタオルは、これだよ!」
自分のタオルとはまったく違う色のバスタオルを見せられ、夫は言った。
「・・・・うちって、一人に一枚ずつバスタオルがあったの?」
息子は呆れたように言った。
「今まで知らなかったの?パパは・・」
何事にも無頓着な男である。
歯ブラシが一人一本ずつあるのは知っているだろうか?
まさかとは思うが・・・・。
怖くて、聞けない。
息子が文句を言う。
「ぼくのバスタオルは、これだよ!」
自分のタオルとはまったく違う色のバスタオルを見せられ、夫は言った。
「・・・・うちって、一人に一枚ずつバスタオルがあったの?」
息子は呆れたように言った。
「今まで知らなかったの?パパは・・」
何事にも無頓着な男である。
歯ブラシが一人一本ずつあるのは知っているだろうか?
まさかとは思うが・・・・。
怖くて、聞けない。
秘密の部屋
2002年12月1日息子と「ハリー・ポッターと秘密の部屋」を観てきた。
品川プリンスシネマのプレミアム館。
チケット代は一人2500円である。子どもも同額だ。
折しもきょうは映画の日。一般館ならば大人も1000円で映画を見ることができる日であった。
昔から、並んで待つということが苦手である。
映画を見たいがために行列して席を取ったり、運が悪ければ立ち見、などという苦行に耐えられないのだ。
でも、ほとぼりが冷めて映画館が空く時期を待てるほど、辛抱強くもない。
結局のところ、我侭なのかもしれない。
だから、近年は、映画を観る時は指定席が取れる映画館に行くことに決めている。
プレミアム館というだけあり、シートは大きく、座席間隔が広く段差も大きいため前の席の人の頭が殆ど見えないつくりになっている。
ゆったりとした肘掛もついており、肘掛の先端には小さなテーブルも設置されていた。
私の隣の席に座ったのは、3人の幼児を連れたお母様。
2歳から5歳くらいの子どもたち3人にもちろん一席ずつ取っている。
贅沢なことだ・・・。
自分のことを棚に上げて、そう思う自分が、可笑しい。
品川プリンスシネマのプレミアム館。
チケット代は一人2500円である。子どもも同額だ。
折しもきょうは映画の日。一般館ならば大人も1000円で映画を見ることができる日であった。
昔から、並んで待つということが苦手である。
映画を見たいがために行列して席を取ったり、運が悪ければ立ち見、などという苦行に耐えられないのだ。
でも、ほとぼりが冷めて映画館が空く時期を待てるほど、辛抱強くもない。
結局のところ、我侭なのかもしれない。
だから、近年は、映画を観る時は指定席が取れる映画館に行くことに決めている。
プレミアム館というだけあり、シートは大きく、座席間隔が広く段差も大きいため前の席の人の頭が殆ど見えないつくりになっている。
ゆったりとした肘掛もついており、肘掛の先端には小さなテーブルも設置されていた。
私の隣の席に座ったのは、3人の幼児を連れたお母様。
2歳から5歳くらいの子どもたち3人にもちろん一席ずつ取っている。
贅沢なことだ・・・。
自分のことを棚に上げて、そう思う自分が、可笑しい。
本
2002年11月30日息子に、私のHPのテキストの誤字をいくつか指摘された。
8歳の息子に誤字を指摘されるとは、なんとも情けない話である。
情けないといえば、息子はきょうついに、ハリーポッターの3巻を読み終えてしまった。
未だ「炎のゴブレット」を読み終えていない私は、とうとう追いつかれてしまった恰好である。
この間にも、息子は図書館で借りた別の本を何冊も読みながら時間稼ぎをしてくれていたのだが、私の力及ばず、ついに今夜からは、1冊の「ゴブレット」を二人で同時に読むという離れ技に挑むことになってしまった。
「今夜は、読んでから寝てね」
息子は私にそう言いつけて、床に入った。
明日までに少しでも読み進んでおけ、ということである。
子どもに宿題を出されるようになっては、母親も形無しだ。
8歳の息子に誤字を指摘されるとは、なんとも情けない話である。
情けないといえば、息子はきょうついに、ハリーポッターの3巻を読み終えてしまった。
未だ「炎のゴブレット」を読み終えていない私は、とうとう追いつかれてしまった恰好である。
この間にも、息子は図書館で借りた別の本を何冊も読みながら時間稼ぎをしてくれていたのだが、私の力及ばず、ついに今夜からは、1冊の「ゴブレット」を二人で同時に読むという離れ技に挑むことになってしまった。
「今夜は、読んでから寝てね」
息子は私にそう言いつけて、床に入った。
明日までに少しでも読み進んでおけ、ということである。
子どもに宿題を出されるようになっては、母親も形無しだ。
キンカン
2002年11月29日スーパーの精肉コーナーに、ちょっと珍しいものが売っていた。
パックに「鶏キンカン」というシールが貼ってあるそれは、鶏の卵巣からとれた玉子らしい。
たしかに金柑の実によく似ている。鶏キンカンとは、よく付けたものだ。
それを見た息子が言った。
「へぇ、キンカンって、肉屋で売っている物なんだ」
私はあわてて、
「違うの、キンカンっていうのはみかんの一種で・・・」と、金柑の説明を始めた。
すると、息子は不思議そうな顔をして言う。
「だって、キンカンってアレでしょう?蚊に刺されて痒い時につける・・・」
パックに「鶏キンカン」というシールが貼ってあるそれは、鶏の卵巣からとれた玉子らしい。
たしかに金柑の実によく似ている。鶏キンカンとは、よく付けたものだ。
それを見た息子が言った。
「へぇ、キンカンって、肉屋で売っている物なんだ」
私はあわてて、
「違うの、キンカンっていうのはみかんの一種で・・・」と、金柑の説明を始めた。
すると、息子は不思議そうな顔をして言う。
「だって、キンカンってアレでしょう?蚊に刺されて痒い時につける・・・」
仕事
2002年11月28日ここ2ヶ月ほどの間、私を悩ませ苦しめて続けてきたある仕事がきょう終わった。
この仕事のおかげで、食欲は落ち、熟睡できない日も少なくはなかった。
早く終わって欲しいとだけ願ってきたはずなのに、いざ終わってしまうと少し淋しいような気もするから、不思議だ。
長い時間背中におんぶしていた手のかかる赤ん坊を、他の人に預ける時の気持ちと似ている。
重い重いとぼやきながら、いつのまにか自らの背中と赤ん坊の間に生まれた温もりを楽しむようになっていたのかもしれない。
これが終わったら・・・。
口癖のように、こう言い続けてきた。
これが終わったら、何をしよう。どこへ行こう。何を買おう。
でも、今は、軽くなってしまった背中をもてあましながら、ただぼんやりしている。
もしかしたら、私がいちばんしたかったことは、ぼんやりすることだったのかもしれない。
束の間の安息である。
来月の末には、また新しい赤ん坊が背中にやってくる。
この仕事のおかげで、食欲は落ち、熟睡できない日も少なくはなかった。
早く終わって欲しいとだけ願ってきたはずなのに、いざ終わってしまうと少し淋しいような気もするから、不思議だ。
長い時間背中におんぶしていた手のかかる赤ん坊を、他の人に預ける時の気持ちと似ている。
重い重いとぼやきながら、いつのまにか自らの背中と赤ん坊の間に生まれた温もりを楽しむようになっていたのかもしれない。
これが終わったら・・・。
口癖のように、こう言い続けてきた。
これが終わったら、何をしよう。どこへ行こう。何を買おう。
でも、今は、軽くなってしまった背中をもてあましながら、ただぼんやりしている。
もしかしたら、私がいちばんしたかったことは、ぼんやりすることだったのかもしれない。
束の間の安息である。
来月の末には、また新しい赤ん坊が背中にやってくる。
喪中はがき
2002年11月25日きょう、私宛てに1枚の喪中はがきが届いた。
もう、そんな時期なのか・・と思いながら、はがきを裏返して差出人の名前を見て、
私は考え込んでしまった。
差出人の名前に、覚えがないのである。
同じ姓の知人は何人かいる。
しかし名前の方に覚えがない。連名になっているご夫婦どちらの名前にも、である。
はがきを手にしたまましばらくの間考えてみたが、結局答えは出なかった。
まぁ、いいでしょう・・・
いずれにしても、今年は年賀状をやりとりできない相手なのだ。
このはがきの差出人が誰なのか、再来年の正月にわかることになるだろう。
その時のお楽しみである。
最近、このようなことが時々ある。
長年社会生活を送っている間に、知人・同僚・顔見知りは無尽蔵に増えていくのに相反して、
記憶力は衰えていく一方なのだから、こういう現象はこれからもしばしば起こりうるといえる。
もしかしたら今度の正月は、差出人に覚えがない年賀状が届くかもしれない。
楽しみのような、恐いような・・・。
もう、そんな時期なのか・・と思いながら、はがきを裏返して差出人の名前を見て、
私は考え込んでしまった。
差出人の名前に、覚えがないのである。
同じ姓の知人は何人かいる。
しかし名前の方に覚えがない。連名になっているご夫婦どちらの名前にも、である。
はがきを手にしたまましばらくの間考えてみたが、結局答えは出なかった。
まぁ、いいでしょう・・・
いずれにしても、今年は年賀状をやりとりできない相手なのだ。
このはがきの差出人が誰なのか、再来年の正月にわかることになるだろう。
その時のお楽しみである。
最近、このようなことが時々ある。
長年社会生活を送っている間に、知人・同僚・顔見知りは無尽蔵に増えていくのに相反して、
記憶力は衰えていく一方なのだから、こういう現象はこれからもしばしば起こりうるといえる。
もしかしたら今度の正月は、差出人に覚えがない年賀状が届くかもしれない。
楽しみのような、恐いような・・・。
蝶
2002年11月24日息子と二人で、生物館へ出かけた。
蝶を放し飼いにしている温室があった。
南国の植物が生い茂る温室の中を何種類もの蝶が自由に飛びまわっている様は、
実に優美で幻想的だった。
突然、「あー、あー・・・」という、女性の声が聞こえた。
声の方に振り返ると、1羽の美しいアゲハ蝶が温室内の池の中に落ちてしまっているのが見えた。
蝶は、何とか水面から飛びあがろうと必死でもがいている。
見守る人々の間から、絶望感の入り混じったため息がもれる。
蝶は、羽をバタバタさせながら水面を少しずつ移動し始めた。
「泳いでるね・・・」と私がつぶやくと、横にいた息子が言った。
「あれが、バタフライって言うんだ」
蝶を放し飼いにしている温室があった。
南国の植物が生い茂る温室の中を何種類もの蝶が自由に飛びまわっている様は、
実に優美で幻想的だった。
突然、「あー、あー・・・」という、女性の声が聞こえた。
声の方に振り返ると、1羽の美しいアゲハ蝶が温室内の池の中に落ちてしまっているのが見えた。
蝶は、何とか水面から飛びあがろうと必死でもがいている。
見守る人々の間から、絶望感の入り混じったため息がもれる。
蝶は、羽をバタバタさせながら水面を少しずつ移動し始めた。
「泳いでるね・・・」と私がつぶやくと、横にいた息子が言った。
「あれが、バタフライって言うんだ」
1000万円
2002年11月22日大好きなテレビ番組「ザ・ジャッジ!」を見ていた息子が、
「ねぇ、ママ!」と言いながら、キッチンにいる私の所へ駆けてきた。
「もしもね、ぼくのお小遣いで買った宝くじで1000万円当たったら、全部ぼくのお金にしてもいい?」
どうやら、宝くじをめぐるトラブルがテーマのジャッジがあったらしい。
何を思いついたのか、息子は希望に満ちた表情でぴょんぴょん跳ねている。
「いいよ。自分のお小遣いで買った宝くじなんでしょう?」
と言ってやると、彼はいっそう目を輝かせ、
「いいんだね?やったぁ!」
と嬉しそうに小躍りしている。
仮想の話でこれだけ盛り上がれる子どもが羨ましい。
「それで、1000万円を何に使うの?」
と訊くと、息子は言った。
「海外旅行に行くの。10回くらいは行けるかな」
誰と行くの?と訊いてみた。
すると息子はにっこり笑って、当然のように言った。
「ママと、パパと、ぼくだよ」
子どもにこんなことを言ってもらえる今が、子育ての旬なのかもしれない。
「ねぇ、ママ!」と言いながら、キッチンにいる私の所へ駆けてきた。
「もしもね、ぼくのお小遣いで買った宝くじで1000万円当たったら、全部ぼくのお金にしてもいい?」
どうやら、宝くじをめぐるトラブルがテーマのジャッジがあったらしい。
何を思いついたのか、息子は希望に満ちた表情でぴょんぴょん跳ねている。
「いいよ。自分のお小遣いで買った宝くじなんでしょう?」
と言ってやると、彼はいっそう目を輝かせ、
「いいんだね?やったぁ!」
と嬉しそうに小躍りしている。
仮想の話でこれだけ盛り上がれる子どもが羨ましい。
「それで、1000万円を何に使うの?」
と訊くと、息子は言った。
「海外旅行に行くの。10回くらいは行けるかな」
誰と行くの?と訊いてみた。
すると息子はにっこり笑って、当然のように言った。
「ママと、パパと、ぼくだよ」
子どもにこんなことを言ってもらえる今が、子育ての旬なのかもしれない。
アイドル
2002年11月21日息子の通う小学校で、まもなく音楽会が開かれる。
私は残念ながら仕事の都合で本番当日は見に行くことができないため、学校に願い出て、特別にきょうの総合練習を見せてもらってきた。
この学校には、小学生にして、現在マスコミで活躍している「アイドル」が一人在籍している。
その子もきょうの総練習に参加していた。
息子とは学年が違う上、テレビで2、3度見たきりなので私はその子の顔をよく知らない。
しかし、その学年の発表が始まるや、私の目はその子に釘付けになった。
その子は独特のオーラを放っており、ひときわ目立っている。
際立って顔立ちがいいとか、スタイルがいいとかいうのではない。
よくわからないが、何となく人目を惹いてしまう強い魅力が具わっているのである。これも天性といえるだろう。
その学年は合唱と合奏を3曲発表したが、1曲毎に歌のパートや担当楽器に従い、立ち位置が変わる。しかし100名余りの児童の中に紛れても、その子の姿は一瞬のうちに見つかった。
まだ、10歳ちょっとだというのに、大したものだ。
アイドルになるべくして生まれた子なのかもしれない。
うちの息子は、タレント性という言葉とは無縁のタイプである。
そんな我が子をステージに見ながら、凡であることに安堵を感じるのも、私の親馬鹿ゆえだろうか。
私は残念ながら仕事の都合で本番当日は見に行くことができないため、学校に願い出て、特別にきょうの総合練習を見せてもらってきた。
この学校には、小学生にして、現在マスコミで活躍している「アイドル」が一人在籍している。
その子もきょうの総練習に参加していた。
息子とは学年が違う上、テレビで2、3度見たきりなので私はその子の顔をよく知らない。
しかし、その学年の発表が始まるや、私の目はその子に釘付けになった。
その子は独特のオーラを放っており、ひときわ目立っている。
際立って顔立ちがいいとか、スタイルがいいとかいうのではない。
よくわからないが、何となく人目を惹いてしまう強い魅力が具わっているのである。これも天性といえるだろう。
その学年は合唱と合奏を3曲発表したが、1曲毎に歌のパートや担当楽器に従い、立ち位置が変わる。しかし100名余りの児童の中に紛れても、その子の姿は一瞬のうちに見つかった。
まだ、10歳ちょっとだというのに、大したものだ。
アイドルになるべくして生まれた子なのかもしれない。
うちの息子は、タレント性という言葉とは無縁のタイプである。
そんな我が子をステージに見ながら、凡であることに安堵を感じるのも、私の親馬鹿ゆえだろうか。
カレシ
2002年11月20日学習雑誌の添削問題を解きながら、息子が訊ねる。
「かみ、って、どんな字だっけ?」
そして、こう続けた。
「右側がカレシだっていうことは、わかっているんだけど」
右側がカレシ?
一瞬、ぎくっとしたが、すぐに彼の言う意味がわかった。
糸偏に、氏で、紙。
氏という文字を、息子は彼氏という言葉にからめて記憶しているのだろう。
しかし、右側が彼氏、という言葉には驚いた。
そういう漢字の憶え方もあったのか。
息子が、私とはまったく違う感性をもっていることを、あらためて思い知らされる。
「かみ、って、どんな字だっけ?」
そして、こう続けた。
「右側がカレシだっていうことは、わかっているんだけど」
右側がカレシ?
一瞬、ぎくっとしたが、すぐに彼の言う意味がわかった。
糸偏に、氏で、紙。
氏という文字を、息子は彼氏という言葉にからめて記憶しているのだろう。
しかし、右側が彼氏、という言葉には驚いた。
そういう漢字の憶え方もあったのか。
息子が、私とはまったく違う感性をもっていることを、あらためて思い知らされる。
賞品
2002年11月18日携帯電話の請求書が届いた。
何気なく見ていて、ポイントがけっこうたまっていることに気づく。
ポイントキャンペーンなんて、やってたんだ・・・。
これまでは、ポイントはいつも機種変更の時に使っていて、品物と交換したことは一度もなかった。
前年度分のポイントの有効期限が書かれている。
早く交換しないと無効になってしまうポイントがあるらしい。
さっそくネットで、賞品のラインナップを見てみた。
ところが・・・。
端から端まで賞品を見たが、欲しい物がひとつも見つからない。
どれもこれも、すでに持っているか、または一生用がないと思われる物ばかりだ。
私に欲が無さ過ぎるのか、あるいは物を見る目がないのか。
欲しいものがない、というのも、老化現象のひとつだと言っていた人がいた。
・・・やばいだろうか。
何気なく見ていて、ポイントがけっこうたまっていることに気づく。
ポイントキャンペーンなんて、やってたんだ・・・。
これまでは、ポイントはいつも機種変更の時に使っていて、品物と交換したことは一度もなかった。
前年度分のポイントの有効期限が書かれている。
早く交換しないと無効になってしまうポイントがあるらしい。
さっそくネットで、賞品のラインナップを見てみた。
ところが・・・。
端から端まで賞品を見たが、欲しい物がひとつも見つからない。
どれもこれも、すでに持っているか、または一生用がないと思われる物ばかりだ。
私に欲が無さ過ぎるのか、あるいは物を見る目がないのか。
欲しいものがない、というのも、老化現象のひとつだと言っていた人がいた。
・・・やばいだろうか。
子育てストレス
2002年11月17日和食系のファミレスで夕食。
我が家の隣の席に座ったのは、小さな子どものいる家族連れだった。
子どもは、男の子ばかり3人。6歳、3歳、2歳といったところか。
この、真ん中の3歳くらいの子が、すごい。
席に着くなり何か気に障ったらしくソファに大の字になって大泣きするわ、テーブルの下にもぐって立ち上がりざまに大音響で頭をぶつけるわ、ジュースはこぼすわ、それはもう大活躍である。
そのたびに父親と母親は、なだめたり叱ったり言い聞かせたり、落ち着きないこと、この上ない。
そうこうしながらも、もちろん長男と三男の世話もやいている。
母親は座って落ち着いて食事をする時間がまったくないように見えた。
男の子を3人育てた女性は独特の雰囲気が身につく。
昔、知人がそう言っていた。
あながち嘘でもないかもしれない。
うちにも男の子が一人いるが、人前ではいたっておとなしいタイプであり、一人っ子のため兄弟喧嘩もなく、調子づいて悪ふざけをすることもなし、親から叱られたり小言を言われたりという経験があまりないまま育った。
そんなわけで、彼が風邪をひきやすく熱を出しやすいということを除いては、私は子育てストレスというものをあまり感じたことがない。
「子育ての苦労」と一言で言っても、子どもの人数、性別、性質、兄弟の年齢差、子の健康状態、家の経済状態などで、程度の差は大きいのだろう。
夫は、この一家を見かねてこう言った。
「男の子が3人いたら、将来は楽だろうねぇ」
本当にそうだろうか?
将来とは、何年先のことを言うのか?楽とは、何が?
おつかれさま、おかあさん・・。
我が家の隣の席に座ったのは、小さな子どものいる家族連れだった。
子どもは、男の子ばかり3人。6歳、3歳、2歳といったところか。
この、真ん中の3歳くらいの子が、すごい。
席に着くなり何か気に障ったらしくソファに大の字になって大泣きするわ、テーブルの下にもぐって立ち上がりざまに大音響で頭をぶつけるわ、ジュースはこぼすわ、それはもう大活躍である。
そのたびに父親と母親は、なだめたり叱ったり言い聞かせたり、落ち着きないこと、この上ない。
そうこうしながらも、もちろん長男と三男の世話もやいている。
母親は座って落ち着いて食事をする時間がまったくないように見えた。
男の子を3人育てた女性は独特の雰囲気が身につく。
昔、知人がそう言っていた。
あながち嘘でもないかもしれない。
うちにも男の子が一人いるが、人前ではいたっておとなしいタイプであり、一人っ子のため兄弟喧嘩もなく、調子づいて悪ふざけをすることもなし、親から叱られたり小言を言われたりという経験があまりないまま育った。
そんなわけで、彼が風邪をひきやすく熱を出しやすいということを除いては、私は子育てストレスというものをあまり感じたことがない。
「子育ての苦労」と一言で言っても、子どもの人数、性別、性質、兄弟の年齢差、子の健康状態、家の経済状態などで、程度の差は大きいのだろう。
夫は、この一家を見かねてこう言った。
「男の子が3人いたら、将来は楽だろうねぇ」
本当にそうだろうか?
将来とは、何年先のことを言うのか?楽とは、何が?
おつかれさま、おかあさん・・。
加減
2002年11月16日昨日受けた予防接種の副反応か、昨夜からひどい頭痛に悩まされている。
さらに今朝からは微熱と全身の倦怠感も出て、体調がすぐれない。接種部位も赤く腫れている。
恐るべし、インフルエンザである。
ところが、一緒に予防接種を受けた息子はいたって元気だ。
接種部位も特に腫れている様子はない。
若さのせいだろうか?
実家に行ってそんな話をしていたら、ちょうど居合わせていた、90歳になる私の祖母が言った。
「医者も、子どもには加減するんじゃないのかい?」
なるほど・・・。
オトナの私は手加減なく、思いっきり奥まで多量に打たれた、ということか。
年寄りの言葉は、さすがに含蓄がある。
予防注射
2002年11月15日子どもと二人で、インフルエンザの予防接種を受けてきた。
先に受けたのは息子。
軽い予診のあと、注射をしてもらった。
息子は赤ちゃんの頃から、注射で泣いたことが一度もない。
風邪をひきやすく熱を出しやすい体質で、2歳の時には大きな病気を患って入院したこともある息子は、生まれてすぐの頃から、病院と縁が深かった。
そのため、他のお子さんに比べて注射を打たれたり検査を受ける回数がやや多かったかもしれないが、病院に連れて行っても泣いたり嫌がったりしない息子に、親の私はどれだけ救われたかわからない。
注射も検査も薬も、床屋も嫌がることなく育った彼を、子どもとして私は尊敬している。
子どもに続いて、私の番。
注射をされる私を、息子は脇の診察台に座って見ていた。
その彼が、注射針が私の腕に刺さる瞬間、「ひっ」とも「あっ」ともつかぬ、声にならない悲鳴をあげて目を手で覆った。
自分の注射の時には声ひとつ出さなかった子どもが、親が注射される場面でビビッている姿は、なんとも可笑しなものだった。
「ママ、痛かった?」
帰り道、何度も息子は訊ねる。
注射の痛さは二人ともに同じであったはずだが、心の痛さは、お互いが注射されている場面を見る時の方が数段強かったかもしれない。
先に受けたのは息子。
軽い予診のあと、注射をしてもらった。
息子は赤ちゃんの頃から、注射で泣いたことが一度もない。
風邪をひきやすく熱を出しやすい体質で、2歳の時には大きな病気を患って入院したこともある息子は、生まれてすぐの頃から、病院と縁が深かった。
そのため、他のお子さんに比べて注射を打たれたり検査を受ける回数がやや多かったかもしれないが、病院に連れて行っても泣いたり嫌がったりしない息子に、親の私はどれだけ救われたかわからない。
注射も検査も薬も、床屋も嫌がることなく育った彼を、子どもとして私は尊敬している。
子どもに続いて、私の番。
注射をされる私を、息子は脇の診察台に座って見ていた。
その彼が、注射針が私の腕に刺さる瞬間、「ひっ」とも「あっ」ともつかぬ、声にならない悲鳴をあげて目を手で覆った。
自分の注射の時には声ひとつ出さなかった子どもが、親が注射される場面でビビッている姿は、なんとも可笑しなものだった。
「ママ、痛かった?」
帰り道、何度も息子は訊ねる。
注射の痛さは二人ともに同じであったはずだが、心の痛さは、お互いが注射されている場面を見る時の方が数段強かったかもしれない。